脱コバルトを目指す電気自動車(EV)のバッテリ

脱コバルトを目指す電気自動車(EV)のバッテリ

電気自動車に必須な電池に使われる材料

2050年のカーボンニュートラルに向けた動きを加速させるのに我々民間として取り組んで聞けることも沢山あります。それは日常的に利用する自動車を電動化することで二酸化炭素や温室効果ガスの排出量削減を行うという事です。

充電中の電気自動車 資源ドットネット

自動車のEV化については日本政府のグリーン成長戦略でも触れているところで、日本は2035年までの新車販売をすべて電動車にすることを目指しています。これにより電動車に利用される「電池」の需要は世界規模でますます増えていく事になります。

リチウムイオン電池に使われているコバルト

リチウムイオン電池の正極(カソード)側にはコバルト(Co)を利用している場合が多くなっています。コバルトを使用すると電池のエネルギー密度が上がり、超寿命で安定した性能の高い電池を作ることができるため電池の材料としてよく利用されています。これは電気自動車の航続距離に影響してくるため技術的な側面で考えれば採用したい原材料となるわけです。

コバルトは元素記号27番目の地球上でも希少な金属類であるため、今後サステナブルな電池供給などを考えていくとメーカーは脱コバルトを考えていかなければなりません。更にコバルトは電池に使われている他の原材料と比べて引火性が高く、バッテリが高温になりすぎた場合の発火リスクが高めになっているため、安全性を完全に求めていく場合のマイナス点ももっています。

コバルトを取り巻く更なる問題

コバルトは更に社会的な問題もかかえています。現在地球上のコバルトの埋蔵量はおよそ710万トンとなっていて、その半分がコンゴ民主共和国に埋蔵されています。そのため採掘が活発に行われているのもコンゴという事になります。

コバルトの埋蔵量 資源ドットネット

つまり、世界中のコバルト需要の半分がコンゴに依存していて、当然世界中からその資源を求めて投資が集まり、採掘のための企業がコンゴに入ってきています。

コンゴ民主共和国というリスク

しかしこの最大産出国であるコンゴのカントリーリスクが非常に高いことが問題となっています。コンゴ国内には国営の鉱山会社が存在するが、生産者については外国企業が主体となっていて、現在はEVを国策としてその普及率を急速に拡大している中国企業の活動が盛んになっています。

このような状況下においても治安が良好な地域とはいえないような状態で、貧富の差も大きく、1998年に大きな内戦が起こった後も、民衆のデモ隊と治安部隊との衝突が頻繁に繰り返されているような状況です。日本の外務省のホームページでもコンゴ民主共和国への渡航をやめるようにとの退避勧告が出されているくらいです。

コンゴ民主共和国 資源ドットネット

深刻化している人権問題

国の情勢が不安定であるため、国営鉱山の運営自体にも監視の目が行き届いていないため、自由奔放なコバルト採掘などが行われている現状があります。外資系企業による人権を無視した労働などが強いられている現場も多くあり、危険が伴う採掘現場にて安全面や人権などがしっかりと守られていないという現状があります。また危険な場所で児童を労働力として活用し不当利得を得ている業者も多くみられているため、先進国の取引所などでは、このような人権侵害のある業者との取引停止などの処置をとっています。

価格の上昇

コバルトの価格は他の鉱物に比べて、希少性からも高く設定されています。それに輪をかけるようにコンゴ政府が法律の改正を行い、コバルトを含めた多くの鉱石について増税を行い、この増税がこれからも続くと予想されているため、安定した価格での供給が難しくなってくるという懸念もあります。

このような状況もあり、世界2位の産出国であるオーストラリアなどでの採掘環境の整備なども行われていますが、新しい材料での電池の開発も急ピッチで行われています。

テスラが採用しているLFPバッテリ

コバルトは電池性能を向上させるものの、希少価値が高く高価で、供給リスクと発火リスクなどもあるため、脱コバルトの動きが電池業界でも起こっています。これに代わるバッテリとして近年電気自動車に採用され始めたのが「リン酸鉄リチウム(LFP)」バッテリです。このバッテリはコバルトやニッケルなどの希少金属を使わずに、代わりに鉄を使うため、その加工の手間や価格を大幅に下げることができます。Teslaが大衆向けセダンとしてリリースしたModel3については中国ギガ上海工場で製造されたモデルについては、LFPバッテリを採用しています。

充電中の電気自動車 資源ドットネット

LFPバッテリは低価格ではあるものの、電気自動車に搭載したときには、コバルトを使用したものに比べて出力が低いため航続距離も短くなるとされていました。そのため低価格帯の電気自動車に搭載するバッテリとして考えられてきましたが、研究も進み、電池性能もどんどん向上しています。

また、これらバッテリをコントロールするバッテリーコントローラの性能が向上し、それをコントロールするプログラムの最適化により電池の効率化も進んでいます。実際にLFPは寒冷地では非常に弱いとされていたものの、ソフトウェアのアップデートなどにより、寒い日の温度制御システムの改善などで解決しているケースもあります。

求められるサステナビリティ

カーボンニュートラルを目指すにあたり、電気自動車の世界だけでなく電池を使う世界ではこれらの問題に必ず直面していきます。地球上の限りある資源を活用して、何度でも再生可能として繰り返し利用できるような製品づくりが求められる中、電池の原料の選択は非常に重要になってきています。LFPの他にもLMO(マンガン酸リチウム)やNMC(ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)、NCA(ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム)などリチウムイオン電池については様々な電池の研究がおこなわれています。

電気自動車で利用されるリチウムイオン電池については今後も脱コバルトの動きがサステナビリティという側面からも求められていくでしょう。

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