国際リニアコライダー

国際リニアコライダー

International Linear Collider (国際リニアコライダー)

国際リニアコライダー(ILC)とは全長20km~50㎞の地下トンネルに建設される巨大な研究施設で、線形加速器と呼ばれる装置で電子や陽電子を衝突させて宇宙の起源であるビックバン状態を作り出し、宇宙の起源や物質の誕生の謎を解くためのものです。

ILCと同じような設備として大型ハドロン衝突加速器(Large Hadron Collider:LHC)という施設がスイスとフランスとの国境をまたいで建設されています。これは欧州原子核研究機構(CERN)が運用していて、陽子ビーム同士をぶつけて宇宙創成期の状態を再現しています。2012年にはこの施設で惑星の形成などに重要な役割を果たしているヒッグス粒子の発見に至っています。

ILCはLHCに比べてより高性能で、ヒッグス粒子を発見するまでに、LHCだと100億回実験して1回ヒッグス粒子が確認できるとすると、ILCであれば100回に1回の高確率でヒッグス粒子を得ることができます。これにより、宇宙の創成期の研究が加速します。

日本では、つくば市にある「高エネルギー加速器研究機構」が中心となってリニアコライダーの構想を固めてきました。同じころ世界各地の科学者たちもそれぞれの地域で計画され、2004年にILCとして国際的に1つの構想としてまとまりました。

ILCの建設地の条件

ILCは建設費用が莫大で有ることと巨大な施設であるため、いくつも作れるものではないため、世界中の科学者が協力して世界に1カ所建設しようとしています。その場所として日本の岩手県が最有力候補としてあがっています。

ILC建設の条件として全長50キロメートルの直線状の加速器を設置するトンネル、粒子測定器を収容する地価の巨大ホールが建設できる場所が必要です。

更に自然環境も安定した場所が求められます。人工的な振動が少なく、活断層が無い硬い地盤で災害の少ないエリアが建設の条件になります。

産業・技術への波及と経済効果

東北ILC推進協議会が策定した資料によれば、ILCを東北に誘致した際の産業振興、技術革新などが与える経済効果や雇用創出は日本にとって大きなメリットになるといいます。

もしこの実験施設を日本国内に建設しようとすると、その建設におよそ10年の歳月を要し、総工費も8,000億円を超えるという試算が出ています。

ILCのプロジェクトは世界各国が参加するプロジェクトであるため、すべてを日本が負うわけではありませんが、設置国である日本は費用の50%を負担しなければなりません。

これだけの費用をかけてでも日本に誘致する価値があるというのは、この研究施設が出来上がることで世界中から研究者や関連産業分野の企業とその家族らが東北にやってくると予想されます。

北上山地エリアと言えば、2011年の東日本大震災で多くの被害を受けた気仙沼や陸前高田などに近いエリアです。まだ復興の真っ只中にあるこのエリアで多くの雇用が生まれ、消費活動も活発になると予想されています。

ILCの設置により解明されるのは人類や今ある「モノ」のすべての根源に迫る基礎研究です。人類がまだ解明していない自然の本当の仕組みにたどり着くことで、ほぼすべての研究分野や産業に大きな影響を与えることで、建設から運用に至る30年間で、その経済的効果も4兆円を超えるとも試算されています。

素晴らしい未来があるILCがなぜ進まないか。

東北の復興や日本が世界に誇れる技術を手に入れられる大きなチャンスがやってきているのにも関わらず、なぜ日本政府はILCの誘致を全力で進めないのかという疑問はだれでも持つことでしょう。ここまでを聞けば、日本人の多くが賛成すると思うのですが、実際はそのようになっていません。

一番のネックはその建設費用でしょう。8,000億円を超える投資が必要になるわけで、試算されている経済効果やILCによる科学的発見の意義自体についても懐疑的であると指摘する人たちも少なくないのです。

また、科学技術の分野は他にも多くあり、これだけの費用をILCに投資してしまうと他の科学分野に資金が回ってこないのではないかと考える人たちも多くいます。世界中の科学者が東北に集まることで、逆に日本からの技術流出にもつながるとまで考える人たちもいるのです。

一度は「NO」。しかし誘致へと進んでいる?

2018年12月に行われた有識者の会議では、学術的な意義は認める一方で、不透明な試算や実現可能性を鑑みて「支持するに至らない」という結論が出ており、これを受け2019年3月7日の回答期限に、文部科学省は「現時点で日本誘致を表明するには至らないもののこの計画に関心をもって国際的な意見交換を継続する」と述べました。

2020年1月30日、日本学術会議では2020年度以降の大型研究計画の在り方に関する指針の中でILCは165件の応募の中から31件に絞られる「重点大型研究計画」には盛り込まれていません。

しかしながら、誘致を進める団体らは新団体を設立しより一丸となって東北へのILC誘致を進める意向を示しています。

日本の科学技術の行く末を担うILC誘致は日本全体で考えていく必要がありそうです。

【参考資料・文献】

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