小水力発電で地域のインフラ確保へ。民間企業のアイデアが地域を救う。

小水力発電で地域のインフラ確保へ。民間企業のアイデアが地域を救う。

地域でのエネルギー確保はこれからの課題

日本のエネルギー自給率は先進国の中でも突出して低く、お隣韓国が16%で33位であるのに対して、34位で11.8%となっています。そしてエネルギーの構成比も再生可能エネルギーを利用したものは11%程度と非常に低く、85%以上を化石燃料に依存しています。化石燃料は日本で殆ど獲得できないため、輸入に頼っているという事になります。これは海外からエネルギーを買っているという事になり、もしこの輸入がとど起こると日本にとって大きなエネルギー問題を呼び起こすことになります。

主要国の1次エネルギー自給率比較
(出典)IEA「 World Energy Balances 2019」の2018年推計値、日本のみ資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2018年度確報値

世界が進める温室効果ガス削減の問題と共に、地震や台風など予期せぬ自然災害も多い近年の日本では、大規模災害によりライフラインが絶たれたときにどのように地域でエネルギーを確保していくかと言うのも大きな問題になっていきます。

風力や水力、太陽光発電など再生可能エネルギーによる地域でのエネルギー確保と活用などが提唱されるなか、富山県の小さな町で企業との協業による新しい取り組みが地域でのエネルギー確保の手本になるのではないかと注目を集めています。

小さな村のインフラ問題から小水力発電へ

小さなコミュニティで発生したインフラ問題

富山県朝日町は人口1万1千人ほどの町です。日本海に面した朝日町は市域の殆どが山になっていて、平地になっている沿岸部に人口が集中しています。

この町の山間部への入り口にある笹川という100世帯ほどの小さな集落で、数年前から水道管の破裂により断水してしまうという問題が起こり始めました。山間部の集落のため、都市部からの水道が無いため、集落よりさらに山に入ったところに「笹川地区営農飲雑用水施設」を建設し独自の簡易水道として笹川地区が管理をおこなっていました。昭和60年(1985年)に建設された施設は老朽化し、笹川地区への給水が不安定になってしまったのです。

この老朽化した施設の改修にはおよそ3億円の費用がかかり、この地区だけでこの金額を負担することは不可能と思われました。

民間企業が新しいアイデアで地域を救う。

ところが、宮城県仙台市の建設会社「深松組」から画期的な提案があり、この計画が新しい形で進むことになります。朝日町に北陸支店をもつ同社は、この地区を流れる笹川に注目し、この河川に小水力発電所を設置、売電を行い、その資金で地域の水道設備費用に充てるというアイデアを出したのです。笹川は一年間を通して安定した流量をたもっているため、ダムにより貯水して発電する方法ではなく、自然の水流を利用し発電する小水力発電を採用しています。

深川組ウェブサイト、小水力発電設備全体図: Image Credit Fukamatsu.

発電所スペック

発電所で利用される発電用の水車は水力発電では最も多く用いられている「フランシス水車」を利用。定格出力は199kW、電圧440V、回転速度は1194rpmの発電機で、常時98kWの出力を行う計画になっています。

地域活性化の新たなモデルケースとなるか?

企業・金融機関・行政・組合が連携

この事業の素晴らしいところは、その地にゆかりのある企業が発案し、地域貢献事業になるという事で、事業を金融機関や信託口、行政、組合などが連携して成功裏に導こうとするしっかりとした連携がなされているところにあります。各方面からの理解を得られなければ実現しない事業です。

発電事業者兼水道施設に係る費用は信託口となる「すみれ地域信託株式会社」がおよそ7.7億円となる費用負担を行い、再生可能エネルギーの固定買取制度(FIT)を利用して売電した収益で地域の水道設備整備資金の返済に充てていきます。金融機関は信託口に対し、地域貢献の一環として優遇金利での融資契約を結び返済の負担を少しでも軽減しています。

また、建設段階から運用に至るまで積極的に地元住民を雇用することで、地域に新たな働く場を提供する事にもなっています。

ESGの観点からも有効

更にESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)の点からも、地域が抱える問題を企業のテクノロジーを利用し、住民らと一丸となって長期的に安定した運営を目指す事業スキームをもったこの事業は非常に有効です。事業保全のために信託方式を採用し、地域資源を最大限に活用し、小さなリターンでも長期的に地域のインフラを守るための仕組みづくりとしては例を見ない形になっています。

地域でのインフラ・エネルギー確保へ

今回の例の様に、過疎化によりインフラ維持が難しい地域と言うのは全国に沢山あり、今後もますます大きな問題となってきます。地域でインフラの維持、エネルギー確保のための仕組みづくりは冒頭に述べた理由も加えて日本全体で取り組まなければならないものです。有事の際、過疎地でのエネルギー確保のためにも再エネの導入により小さなリターンを長期的に運用することで、地域の活性化につながる手本として成長してほしい事業です。

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