震災から15年、学びの多い「廃炉」という作業
東日本大震災の発生から15年という節目を迎えた今、ニュースで「福島第一原子力発電所」の名前を聞く機会は、以前に比べると減ったかもしれません。しかし、現地では現在も、2051年の完了を目標とする「廃炉(はいろ)」に向けた、人類史上類を見ない難事業が続いています。
防護服なしで歩けるエリアの拡大、ALPS処理水の放出に伴うタンク解体の開始、そして少しずつ動き出した「燃料デブリ」の試験的取り出し——。
東京電力は、特設サイトを設置して、この「廃炉」という一見未来がなさそうな作業を日々レポートしています。このサイトで報告されている事を見ると、今までやった事のない新しい事への対応を迫られた事により、多くの新しい事を学んでいると感じます。
あの日から今日まで、現場はどのような苦難を乗り越え、現在どのフェーズにあるのでしょうか? 最新の現地情報をもとに、福島第一原発の「今」を、わかりやすく解説します。

「HairoMichi(はいろみち)」2017年4月1日から2か月に1回発行されている廃炉に向けた活動や現状を伝える情報誌は、2026年2月10日で54号を迎えた。
震災直後の「戦場」から、様変わりした現在の構内
震災直後や数年後の福島第一原発といえば、作業員全員が顔全体を覆う全面マスクと白い防護服に身を包み、張り詰めた緊張感の中で作業にあたる姿が記憶に残っているはずです。しかし、現在の構内環境は当時とは劇的に変化しています。
- 約96%のエリアが軽装備可能に: 敷地内の継続的な除染作業や舗装により、現在では構内の約96%(Gゾーン)において、一般の工事現場と同じような作業服での移動や作業が可能になっています 。
- 被ばく線量の大幅な低減: 2025年10月時点のデータでは、作業員の月別平均個人被ばく線量は0.27mSv(ミリシーベルト)まで低下しています 。これは法令基準と比較しても十分に低い数値です 。
- 普段着での視察も可能: 線量の低下に伴い、現在では一般の視察者もヘルメットやマスクなどの特別な防護装備を着用せず、普段着のまま視察できるエリアが広がっています 。
- 巨大な防潮堤の完成: 切迫する日本海溝津波などのリスクに備え、高さ13.5m〜16mにも及ぶ堅牢な防潮堤が2024年3月に完成し、新たな脅威への対策も強化されています 。
目に見える環境は大きく改善されましたが、原子炉建屋の内部には今も人が近づけない極めて強い放射線が残っており、真の戦いはここからが本番なのです。
ALPS処理水の放出と「タンク解体」という新たなステップ
廃炉作業を進める上で、どうしても避けて通れなかったのが「水」の問題です。
汚染水を特殊な装置で国の安全基準を大幅に下回るまで浄化した「ALPS処理水」は、敷地内に建ち並ぶ約1,000基のタンクに保管されていましたが、廃炉のための新しい施設を建設する「場所」を確保するため、2023年夏から海洋放出が開始されました。
この大きな決断と苦難を経て、現場の風景は少しずつ動き始めています。
- タンク解体の開始: 海洋放出により貯蔵量が減少に転じたことで、2025年9月には「J9エリア」のタンク解体が完了しました 。さらに、2026年1月からは隣接する「J8エリア」の解体にも着手しています 。
- 空いたスペースの活用: タンクを解体して空いた敷地には、今後本格化する燃料デブリの取り出しに向けた関連施設が建設される予定です 。
東京電力では、ALPS処理水についてのポータルサイトを設け、この海洋放出の状況を逐一報告しています。

汚染水を「増やさない」ための、ミリ単位の地道な戦い
処理水の放出と並行して、現場では「そもそも新たな汚染水を発生させない」ための高度な取り組みが行われています。
- 発生抑制目標の前倒し達成: 地下水や雨水が建屋に流れ込むのを防ぐ対策(陸側遮水壁など)により、「2025年内に汚染水発生量を1日あたり100立方メートル以下にする」という目標を、2023年度の時点で前倒し達成しています 。
- 最難関の「建屋間ギャップ端部止水工事」: 2028年度末までに発生量を1日あたり「50〜70立方メートル」まで減らすという次なる目標に向け、現在急ピッチで進められているのが建屋間の隙間(ギャップ)を塞ぐ工事です 。
- 30メートルの先を狙う職人技: 建屋と建屋の間にあるわずか100ミリ(10cm)程度の隙間にモルタル等の止水材を流し込むため、建屋の上部から斜めに30〜40mもドリルで掘り進めるという超高難度の削孔作業が行われています 。これは100分の1の施工精度が求められる、まさに職人技です 。この対策により、特に流入量の多い3号機では、建屋への地下水流入が半減以下になると期待されています 。
廃炉の「最大の難関」。未知の物質「燃料デブリ」への挑戦
福島第一原発の廃炉を「人類史上最も困難なプロジェクト」と言わしめている最大の理由が、推計約880トンにも及ぶ「燃料デブリ」の存在です 。
超高線量下にあるこの未知の物質に対し、現場では少しずつ、しかし着実に歩みを進めています。
- 1号機・3号機・4号機の進捗: 3号機と4号機では、すでに使用済燃料プールからの燃料取り出しが完了しています 。また、1号機でも2026年1月に上部への「大型カバー」の取り付けが完了し、放射性物質の飛散防止と雨水浸入を防ぐ体制が整いました 。
- 2号機での「試験的取り出し」成功: 2号機では遠隔操作機器を用いた試験的取り出しが実施され、2024年11月に約0.693g、2025年4月には約0.187gの燃料デブリの採取に成功しました 。数グラムというごくわずかな量ですが、この「実物」を分析することで、本格的な取り出しに向けた安全な方法の確立へとつなげていきます 。
一気に全てを取り出す魔法はありません。「ステップバイステップ」で、得られた知見を一つひとつ積み上げながら、未知の領域への挑戦が続いています 。
2051年。30〜40年後の「廃炉」に向けた次世代へのバトン
国と東京電力が掲げる目標は、「2011年12月から30〜40年後(2041年〜2051年)に廃炉を完了させる」という壮大なものです。
この超長期戦において希望となるのは、すでに現場で活躍を始めている「新しい世代」の存在です。例えば、地元・福島県出身の若手社員の中には、自身の得意な英語を活かし、IAEA(国際原子力機関)の査察対応や国際社会への報告という極めて重要な任務を担っている方もいます 。
事故の記憶を直接持たない世代が、専門知識やそれぞれの強みを武器にして、廃炉という巨大なミッションの最前線に立っているのです。
私たちにできることは「忘れないこと」と「知ること」
廃炉に向けた戦いは、今の作業員から次の世代のエンジニアや研究者へとバトンを繋ぎながら進んでいきます。
廃炉作業には新しい技術の開発が不可欠です。この経験値は今後、安全な電力確保やトラブルへの対応として私たちの未来に必ず生きてきます。このように、現場で起こっている事を正しく理解し、一緒に応援していく事も遠くに住んでいたとしてもできる復興の手助けの1つです。
また、風評被害を乗り越えるための正しい知識の共有など、現場の外にいる私たちにもできることが沢山あります。ニュースで「福島第一原発」という言葉を目にしたとき、この記事で知った「地道な努力が続く今の状況」を少しでも思い出していただければ幸いです。
資源ドットネットでは、今後も廃炉に向けた最新の技術動向などを追っていきます。
